「お金が貯まる」というイメージの海外駐在員、若手でも年収1千何百万!といった話に何かと注目が集まりがちですが、いたずらに額面年収を書くことは色々と誤解を招く気がしています。このポストでは、駐在員給与の計算方法を少しだけ細かく見てみることで、駐在員の給与の実質的な増加額、あるいは純然たる海外手当の金額がどれくらいなのかを実例で見てみたい思います。もちろん、この記事の内容はひとつの例でしかありませんが、これから海外駐在を控えている方・目指している方の参考になれば幸いです。
日本での月給約80万円の駐在員の実質的な手取増加額は月17万円
結論から先に書くと、日本での額面月給が約80万円の駐在員が、アメリカ駐在に伴って受けとっている海外手当の額は約17万円/月でした。年間約200万円ですね。日本の額面給与が40万円の場合は、11万円/月くらいだと思われます。これが、駐在によって追加で貯蓄や投資に回すことのできる、実質的な手取の増加額です。
いかがでしょうか。「あれ?思った/聞いたほどの金額ではないな」と感じた方も少なくないのではないでしょうか。
もし仮に額面年収を比較したとすると、日本の年収の2倍近くをもらっている計算になると思います。そこを強調して、もっと刺激的なタイトルのブログ記事を書くこともできそうな気はします(実際書くかもしれません)。しかし特に次の3点を考慮した場合、額面年収での比較はあまり適切とは思えないのです。
- ベースとなる日本の給与の違い
- 日本と駐在先の物価の違い
- みなし額の控除
以下で少し補足します。
ベースとなる日本の給与の違い
言うまでもなく、所属している企業やその業種、社内での役職などによって給与は異なります。メーカー勤務の二十代若手社員と、商社勤務の管理職の海外給与は大きく異なるはずです。元々給与の高い商社勤務で駐在先の経営層の役職についている方が、駐在先での年収が3000万円以上と言われても、メーカー勤務の若手の方にとってはあまり参考にならないのではないのでしょうか。
日本と駐在先の物価の違い
日本と駐在先では物価が大きく異なります。そしてどの企業でもその物価の差が駐在員にとって有利にも不利にもならないような制度が設計されています。この調整に使用されている指数の妥当性についての賛否はあるかもしれませんが、基本的に日本と同等の生活を送るために必要な生活費が支給されており、その金額を比較しても単に物価の差を比較しているのと変わりません。貰える金額が増えた分、使う金額も増えるだけです。
もちろん、生活費を節約することで貯蓄や投資に回す金額を増やすこともできますが、それは本質的には駐在と別の話です。
みなし額の控除
駐在員の家賃は、与えられた給与の中でやりくりするのではなく、上限の範囲内での実費を会社が負担するケースが多いと思います。また、確定申告は会社指定の税理士法人が手続きしてくれ、税金の支払い自体も会社が行うケースがあります。このため、一見すると家賃や税金はタダ!のように見えるのですが、実はそうではありません。Bonの勤務先の場合、日本で社宅に入っていた場合の自己負担相当額、日本にいた場合の所得税・住民税相当額がみなし額として控除されます。決して家賃や税金がタダなわけではないのです。むしろこの部分は節約の余地がない管理不能費とも考えられ、この金額の多寡を話すことにあまり意味はありません。
駐在員の給与算出方法
では、実際にどのように駐在員の給与が計算されるのかを見てみましょう。なお数字は嘘にならない範囲で適度に丸めていますのでご了承ください。
Bonの勤務先では「購買力補償方式」で算出された現地給与と、日本円で支給される国内給与が支給されます。現地給与は米ドルで米国の口座に、国内給与は日本円で日本の口座に振り込まれます。 この方式は多くの企業で採用されていると思いますし、概念としてはよく分かります。ただMERCER社のこの図解は、大変失礼ながらあまりピンときませんでした。。
そこで、この記事では独自の図解を試みたいと思います。はいドン!
なお上記に賞与は含まれず、賞与は駐在前と基本的に同じ額が国内口座に振込まれています。
以下、順番に見ていきましょう
生活費
駐在前の給与のうち、35万円は生活費相当とみなされ、そこに物価の差を考慮した係数160%をかけた56万円が現地での生活費として現地口座に支給されています。
ベースとなる35万円は、家族構成と給与総額に基づいて算出されているため、同じ家族構成が必ずしも同じ金額にはなりません。Bonの家族構成は4人ですが、国内で「家賃光熱費を除いた生活費35万円」を妥当と感じるかどうかは人それぞれでしょう。仮に30万円で十分だという人なら、差額5万円の60%である3万円も駐在による手取り増とみなせます。
160%という係数の妥当性はどうでしょうか。この記事では詳細には触れませんが、私個人の経験上は妥当な係数だと思います。日本とアメリカ東海岸都市部では、実感としてこのくらいの物価の差があるのです。
家賃・光熱費、税金
家賃・光熱費は、日本での相当額をみなしで控除されます。この例では社宅の自己負担額相当となっているため、勤務先に社宅制度がない方には恵まれていると受けとられるかもしれません。税金は、国内勤務の場合に控除されるであろう所得税・住民税相当額を控除されます。税金の控除額は給与の額に連動する点で、定額控除の家賃・光熱費とは異なりますが、日本にいた場合と同等の金額を負担しているという点では同じです。
駐在先での家賃・光熱費・税金は、会社が実費を負担します。手続き的には、家賃・光熱費は一旦自分で支払ったものを精算しているため、家賃・光熱費がタダになっているような錯覚を覚えることがたまにあるのですが、実際には日本での相当額は負担しているのでタダではありません。
アメリカ東海岸都市部の家賃は非常に高く、日本の2~3倍かかることも珍しくありません。この部分を収入として表現することはミスリーディングになるため、上の図ではあえて数字を入れず、箱の大きさも変えずにおきました。
税金は正確な額を把握していません。確定申告の書類を見れば分かるのだと思いますが、還付金も会社に戻るだけなのであまり真剣に見たことがありません。
健康保険・年金
健康保険と年金は、みなしではなく国内勤務時と同じように同じ金額が控除されており、国内給与の額面金額にも含まれています。駐在による影響は特にありません。
余裕資金・海外手当
ここまでの金額をすべて差し引いた残りの金額は、いわば「余裕資金」ということになります。そこに海外手当てを加えた額が、国内給与として日本円で国内の口座に支給されます。海外手当の金額は、定額のベース部分と給与に連動する定率部分から構成されており、合計で10~20万円位の幅に収まると思われます。つまるところ、この海外手当だけが純粋に駐在によって増加する手取額です。MERCERの図で「インセンティブ」に相当する部分と思われます。
国内口座は引き出しが容易には行えないため、基本的には貯蓄として寝かせておくことになります。
駐在員の給与は高いか
以上、駐在員の給与構造を見てきましたが、いかがでしたか?駐在員の給与は高かったでしょうか?それほどでもなかったでしょうか?
額面年収だけを捉えると、非常に高く見えるかもしれません。あえて数字を入れなかった、家賃・光熱費・税金までを含めた額面年収を考えるとギョっとします。しかし、その金額のうち大半は、家計管理から見た場合には管理不能費なのです。
一方で、80万円の月給に対して17万円の手当てというのは、国内の単身赴任者への手当て等と比較しても大きな差ではないような気がします。駐在で収入が増えるのは確かですが、世間のイメージほどではない、というのが私個人の感想でしょうか。
この記事ではカバーできてなかった他の要素として、医療費、通勤にかかる自動車関連費用、現地校や日本語学校の授業料、小さなお子さんがいる場合のデイケア費用などもあります。会社によって何がどこまでサポートされるかは異なると思われます。また、駐在に伴って配偶者の方が退職・休職されるようなケースでは、駐在による収入減のインパクトも無視できません。駐在を考えられている方は可能ならば自社の制度を事前に良く調べてみることをお勧めします。
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